関連学会

自然言語処理関係の関連学会の小町の独断と偏見によるまとめです。

国際会議

自然言語処理分野では、他の理工系分野と異なり、採択率の低い査読付きの国際会議に論文を通すことが高く評価されます。論文を探して読む場合でも、いわゆるトップカンファレンスと呼ばれているような国際会議の採択論文を読むと、外れの論文を引く可能性を減らすことができます(そういうところで発表されていなくてもおもしろい論文はあります)。自然言語処理の国際会議の論文のほとんどは ACL Anthology から無料で PDF をダウンロードすることができます。また、最近は TACL と呼ばれる論文誌に投稿する人も増えてきたので、TACL も合わせて目を通す必要があるでしょう。以下は(1つに絞りきれていませんが)トップカンファレンスとみなされている国際会議のリストです。

    1. ACL: 自然言語処理でもっとも権威があり、かつ採択率も低いトップカンファレンス。北米・ヨーロッパ・アジアを毎年ぐるぐる回って開催される。自然言語処理で最大の国際会議なので、論文で名前を知っている研究者が普通にそのあたりを歩いていたりするので、一度は参加してみるとよい。

    2. NAACL: North American Chapter of ACL。北米で開催される ACL で、研究者の中には北米内の会議にしか出ない人もいるため、ACL に次いでレベルが高い。ただし、発表される内容は機械学習・統計的手法が中心で、DARPA などの軍主導の予算の研究も多い。機械学習のトップカンファレンスの一つである ICML と協調して連続開催されたりすることもある。HLT (Human Language Technology) という国際会議と一体で開催されていることが多い。

    3. EMNLP: 機械学習や統計的自然言語処理に重点を置いているトップカンファレンスの一つ。最近できたため、自然言語処理分野外では知名度が今ひとつ。実験をしっかりした手堅い研究が多いので、面白みに欠ける感はある。以前は必ず他の国際会議と共催・連続開催になるパラサイト会議だったが、肥大化して2008年から単独開催もするようになった。2020年から Findings というシステムが採用されて、会議では発表できないが一定のクオリティの研究を出版するようになった。

ここから先はトップカンファレンスではありませんが、メジャーカンファレンスとみなされている国際会議です(IJCNLP と LREC は大きな国際会議ですが、レベル的には難関国際会議というわけではありません)。

    1. COLING: ACL と同じくらい歴史のある自然言語処理のメジャーカンファレンス。言語寄りの話が多かったり、必ずしも機械学習のようなプラグマティックな流行に迎合しない骨太さがある。他の会議に実験の不足や不具合で落とされたのではないか、というような論文もあるが、逆にアイデアはおもしろい研究に出会えたりする。

    2. EACL: ヨーロッパ地区の ACL 参加の国際会議。EACL だからヨーロッパ以外からの投稿を受け付けないというわけではなく、世界中から投稿がある。メジャー国際会議の中では投稿締め切りが最も早いので、そのとき投稿できるネタがあるならチャンス。

    3. AACL: 2020年から新しく始まった ACL 参加のアジア地区の国際会議。最初はあまりレベルが高くないと思われるが、最終的には EACL や IJCNLP と同レベルには落ち着くのではないかと思われる。ボリュームゾーンである中国の研究者が参加すると一気にレベルが上がると思われるが、何かのランキングに載らないとみんな投稿しないかもしれないので、時間がかかりそう。

    4. IJCNLP: 下記の PACLIC や PACLING 等を統合した国際会議として始まる予定だったが、結局新しい国際会議が1つ増えただけだったみたい。PACLIC や PACLING と比べると規模の大きい国際会議で、割と有名どころの研究者も参加したりしている。分野外の人からすると IJCAI や IJCNN のように有名な国際会議に見えるらしい。AACL が認知されていったら IJCNLP は(常に何かの国際会議と同時開催になることで)消滅するかもしれない。

    5. LREC: 言語資源に関する世界最大の国際会議。査読は厳しくない(6割くらい)。言語資源はみんなリファーしてくれる論文が多いので、被引用数は高めに出がち。ヨーロッパ的な観光地で開催することに並々ならない熱意があるので、バーチャル国際会議と相性が悪い。

ここから下は、分野外の人は存在を知らないでしょうが、自然言語処理分野の人であれば存在を知っているであろう国際会議です。

    1. PACLIC: アジア太平洋地域で言語学の人と自然言語処理の人が一緒になって運営している国際会議。両方の人が参加しているのが特色。口頭セッションは IJCNLP や EACL レベルで、採択率3割くらい。残りはポスターで採択して、いろんな人と議論をする、ということを主眼に多様性を持たせていて、好印象。

    2. PACLING: 元々はオーストラリアと日本を中心に、カナダや韓国などアジア太平洋地域の研究者で開催されていた国際会議。PACLIC とは異なり、完全に工学の国際会議だが、2-3パラレルセッションで小ぢんまりとした国際会議なので、国際会議デビューには向いているが、年によって運営が変わりすぎるので、厳しい年は厳しい(採択が厳しいという意味ではない)。

    3. CICLing: PACLIC や PACLING と同じようなレベル感だが、観光地で開催してエクスカージョンで親睦を深めることがもう一つの目的となっている国際会議。運営がかなり行き当たりばったりで、ヤキモキするかもしれないが、楽しめる人は楽しめる。しかし、バーチャル国際会議の時代になって、開催が危ぶまれている。

    4. RANLP: 国際会議という位置付けだが、毎回ブルガリアで開催される国内会議に限りなく近いので、日本からわざわざ投稿する人は少ない。

国内学会・研究会

言語処理学会という巨大な学会を除くと、関連する似たような研究会が多いので、全部合併するなり廃止するなりしたらどうかと思うのですが、大人の事情によりできないこともあるそうで、人によって行く学会・研究会がまちまちです。

    1. 言語処理学会: 年に1度3月に開催される年次大会が目玉。600人以上の参加がある巨大な大会で、日本にいる自然言語処理研究者のほとんどに会える祭典。近年は大きすぎて3日間では話せない人のほうが多いかもしれない。研究をスタートしたばかりなら、聴講だけでもぜひ参加するとよい。若手の会の懇親会も毎年初日の夜に開催されており、学外・社外のつながりが産まれる場でもある。よくも悪くもみんな真面目である。

    2. 情報処理学会: 隔月で開催される研究会(自然言語処理研究会=通称NL研)が有名。毎年5月は同じく情報処理学会の音声言語情報処理研究会と合同で開催され、学生奨励賞が授与される学生特別セッションがあるので、あまり学会賞がインフレしていない言語処理分野では学生が賞をもらえる貴重な機会となっており、狙って出す人もいる(2015年より優秀研究賞が新設されたので、そちらを狙いに行く人もいる)。最近企業の人が NL 研に来てくれなくなり、地盤沈下が進んでいるが、ニコニコ生放送は2日間で2,000アカウント程度のアクセスがあるなど、リアルと違って盛況である。毎年3月に全国大会も開催されるが、言語処理学会の年次大会と時期が被っているため、あまり行く人がいない。

    3. 人工知能学会: 年3回の研究会(言語・音声理解と対話研究会=通称SLUD)と毎年6月の全国大会が開催。全国大会は毎回観光地で開催され、懇親会費が無料かつゴージャスなので参加者が多い。最近は参加者が増えすぎてホストしてくれる人が大変だという声も。言語処理学会や情報処理学会の全国大会と開催時期は被っていないので参加しやすいのだが、発表の申し込み〆切が言語処理学会の年次大会と同じ時期なので、結局発表申し込みしにくいという問題点がある。

    4. 電子情報通信学会: 年数回の研究会(言語理解とコミュニケーション研究会=通称NLC)と9月に情報通信学会と共催される FIT が目立つイベント。NLC は参加者はおろか発表者の確保が課題という厳しい状況であったが、テキストマイニングや集合知などホットなトピックでのシンポジウムの企画で最近は息を吹き返しつつある。FIT は全国大会なのに査読が一応あるという触れ込みであるが、査読に落ちても一般講演で発表できるので、結局査読があるのかないのかよく分からない。

    5. 日本データベース学会: 情報処理学会データベースシステム研究会および電子情報通信学会データ工学研究専門委員会と共催で、年1回秋に WebDB Forum、春にデータ工学と情報マネジメントに関するフォーラム(DEIM)を開催している。ウェブマイニング系の研究をしている人が最近そちらに流れているらしい。DEIM は合宿形式で夜まで懇親会が開かれるそうで、体力勝負である。