奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科特待生制度紹介

2010年度の募集より、特待生プロジェクトの義務がなくなったようです (研究経費も出ないし国際化活動支援の経費も出ないため)。 以下に書かれることはほとんど当てはまらなくなったと思いますが、 記録のために残しておきます。 特待生面接を受けられた方は、その年の状況をブログ等で公開してくださると ありがたいです。

このページは非公式であり無保証です。特待生制度は新しい制度であり、 日々改善されています。(特に意見を言うとすぐ対応してもらえるので、 不満点として書いていることも現在は変わっている可能性が高いです) ここに書いてあることが常に正しいとは限らないので、 公式ページも参照してください。(少なくとも、現在の特待生面接は 圧迫面接ではないそうです)

最近の事情については、他の人の書いたページを見るとよいでしょう。

論理生命学講座の keiko-te さんによる naist特待生のススメnaistの入り方(本編) は必見です。また、 特待メリットという記事も参考になります。


  1. はじめに
  2. なんで特待生?
  3. 特待生の採用プロセス
  4. 特待生追加採用
  5. 追加面接
  6. 特待生になってから
  7. 特待生面接 HowTo (2008年更新)

はじめに

NAIST の情報科学研究科の特待生プログラムというのは、2005年度入学生 から始まった新しい制度です。NAIST でもバイオサイエンス研究科はまた 違った独自の特待生制度を持っているようですが、情報科学研究科の特待生 制度は 公式ページによると、

といった能力を持つ人材の育成を狙った制度のようです。ただ、特待生制度 は始まったばかりのものであり、受験生も NAIST 生もあまり特待生制度について 知らないことと思います。また、あまりこの制度について書いてある web ページもないようです。そこで、ここでは実際に特待生プログラムに採用された 側の意見として、特待生とはどのようなものか述べたいと思います。 採用されるまで(採用されてからもしばらく)全然実態が分からなかった制度ですが、 なってから知ったことも多々ありますので、広くこの制度について知ってもらい たいと思います。特に特待生に応募しようと思っている人の参考になれば幸いです。 (特待生面接のときでも、採用されてからでも、このページ読んで参考になったと 言ってもらえるようだとうれしいです。)

ちなみに自分たちのように11月に採用される制度は今後ないはずで、 特殊なケースであったということと、まだ始まったばかりの制度なので 先生方も試行錯誤でやっているので制度的な不備もある(からどんどん 学生の側から指摘してほしい)ということは強調しておきます。

なんで特待生?

特待生に応募しようと思ったきっかけは、自分が入学する年度からこの制度が スタートすることを知ったからですが、そもそも自分は学費や生活費など全部 自分で工面しているので、学費免除にならなかったらそもそも生活がかなり 苦しくなりそうだ、ということが一番大きい理由です。他に応募した人も、 「お金がほしいから特待生に応募しました」と面接で堂々と言った人もいるし、 割に NAIST はお金に関してはあまり親に頼っていない人がいる気がします。

自分は奈良に来る前は東京で住み込みのアルバイトをしていたので部屋代も かからず生活できていましたが、留年していて(国立大学は留年するといかなる 理由があろうと学費免除の対象から外れるのです)学費は収めなければならず、 アルバイトの口がある見込みがあまりなかった奈良に来るのは不安でした。 実際入学試験でも、寮に入れなかったり日本学生支援機構(旧育英会)の奨学金 がもらえなかったりしたら NAIST には来られない、特待生に採用されたら来る つもりだが、採用されなかったらもしかしたら東京の大学の大学院に進学する かもしれない(文科系の大学院の試験は1月2月で、NAIST の最初の試験は7月だった ので、迷う余地はありました)、ということを、配属希望先の自然言語処理学講座 の松本先生にも伝えてありました。

自然言語処理学講座は文科系から専攻を変えて来る人も多い研究室ですが、 自分も文科系から情報科学研究科の修士になったので、最初から特待生プログラム が求めていたような(研究)プロジェクトの発案はできそうにないし、するつもりも ありませんでした。最初考えていたのは修士1年の間は勉強に集中して、修士2年 からなにか新しいこと(研究に限らず)を始めていこう、ということです。 特待生プログラムに採用されていれば、生活費の心配をあまりしなくてよくなるので、 修士の最初は勉強に専念できて、修士2年から博士にかけて研究に打ち込めるかな、 というように考えていました。

特待生の採用プロセス

NAIST の特待生に採用されるためには、まず入学試験で特待生を希望しなければ なりません。願書に特待生希望と書くと、入学試験の面接のときに再度「特待生を 希望しますか?」というように念を押されます。そして入試の英語・数学・面接の 成績(逐一報告があるようです)がよければ、特待生の面接に進むことができます。 特待生の希望を出した人は、入試の面接の終了後も別室で待機になり、全体の結果 が出揃ってから面接の対象者が通知されました。 自分は2005年の入試の1日目の選考を受けましたが、特待生面接まで残ることが できた人は、30人ほど待機していた中2名でした。

特待生採用の面接では、特待生に採用されたあとどんなことをするつもりかと いうことを聞かれました。それまでの特待生の募集では「海外で研究発表する」 「なにかプロジェクトを立ち上げる」といった内容で募集がされていたので、 自分も「海外で研究発表する」という内容の話をしたのですが、文科系(哲学科) 出身なので修士1年からがんがん研究発表するつもりもないし、海外に行くのも 修士2年からのつもりだ、ということを強調したら、修士1年からそういうことを やってくれる人を募集しているのだ、ということを言われて、結局このときは 採用されませんでした。

この年の特待生制度に採用になった人は1人個人的に知っていますが、その人は 結局 NAIST には来ることなく、東京の大学に進学しました。また、もう1人特待生 に選ばれたという人の話も聞きましたが、その人は特待生として入学すると研究室 が替われなかったり(←これは誤解かもしれませんが)、海外に行けと言われたり プロジェクトをしろと言われたりする仕事が大変そう(←これは本当ですが)なので NAIST には来たけど特待生は辞退した、という話だったり、特待生が誰でどんな ことをしているのかは、12月になって自分が採用されるまでずっと謎のままでした。 自分も入学してからは目が飛び出るほど忙しかったので、特待生に採用されないで むしろよかったかも、と思っていました。

特待生追加採用

そうこうしていると、NAIST が 魅力ある大学院教育イニシアティブに採択されたので、特待生制度を拡充して 人数も増やす、という話を聞きました。11月半ばのことです。

自分はちょうどそのころ学生中間発表や授業や勉強会、研究室の共同研究の 仕事などで火の車のように忙しかったころで、正直出すかどうかかなり迷いました。 ただ、JAIST との合同研究会に行ったとき、自分が所属する自然言語処理学講座の 松本先生に相談してみたところ、「やりたいことがあるなら出してみればいいし、 来年はいい学会もたくさんあるからお勧めするけど、やりたくないなら無理にやる ものでもないし、出さないでもいいんじゃないか」ということを言われ、それなら 少しはがんばってみてもいいかな、と思い、それから特待生プログラムの計画書を 書きました。(JAIST の研究会の日が締切だったので、言われてから研究会は半分 くらいしか聞かずに計画書を書いてメールしましたが)

特待生のプログラムは、計画例に

といったものが挙げられていたので、研究に関係する範囲でなにかできるかと 思い、機械翻訳のプログラムを作ってデモする、という計画を立てました。 自然言語処理学講座では昔から茶筌(chasen)や南瓜(cabocha)といったツールを 公開しており、専門家に限らず非常に幅広く全世界で使われている、といった 背景もありました。

蓋を開けてみると、追加募集枠が3-4人程度だったところに11人で、倍率は 3-4倍といったところです。面接は1人10分程度と言われていましたが、行って みると面接官の先生方が4名ほどで、特待生のプログラムでやりたいことの アピールをしてほしい、と言われたので、計画書に書いたことを説明しました。

するとまず言われたのは、「研究と関係することなら研究室でやればいいので、 特待生でやりたいことはなんですか」ということでした。機械翻訳のプログラム を書くことは、自分の研究テーマとは関係ないので(自然言語処理という観点では 同じですが)、研究の一環というわけではないことを言いました。

去年の募集のときも具体例を見てみると、入学当初からプロジェクトを行なう、 海外に行って発表する、といったことが挙げられていたので、他の追加募集の応募者 もほぼ全員(←小さい大学なのでほとんど全員知り合いです)研究に関する計画書を 要求されているのだと思って計画書を書き、面接に臨んだわけですが、どうも研究は 研究としてがんばってくれればよいので、研究以外にプラスアルファでなにか してくれる人、特に NAIST の知名度を上げるようななにかをしてくれる人、 というのを募集しているようでした。

この点、他に特待生面接を受けた人も、「研究の話を聞きに来たわけじゃない んだからそんな話はしないでくれ」とか「きみはそもそも特待生の趣旨を理解 していないね」とか言われたそうですが、特待生の趣旨が明確に書かれた文章を (上記の web ページくらいしか)これまでに見たことはありませんし (そもそもほとんどの人は上記の web ページの存在すら知らないと思いますが)、 特待生になった人がどんなことをしているのか(特待生に入試のときも希望したし、 今回も応募するほど関心が高い自分からしても)全く誰も知らない状況なので、 この追加募集の面接を受けた人全員が「これは話が違う」と感じたと言っていました。

また自分は海外に行こうと思っているのは翌年の夏であり、本年度は行く予定は あまりないと何度も伝えましたが、「海外の研究室にアポ取って押しかけるくらいの ことはしてほしい」と言われたり、「年度ごとに予算が出ている関係上来年の3月 までにどこか行きたいところはないか」と言われたり、どうも海外に行くのはほぼ 強制のようでした。

あとから知ったことは、4月採用の人も「海外に行くのが must なのは前から 書いてあったことでは」と言っていましたが、応募する人はみんな「海外へ行く」 =「国際会議で発表する」もしくは「海外へ行く」=「自分で交渉してコネクション を作る」だと思っていたのに、実際にどういうことをしていたか聞いたり読んだり したところ、「海外へ行く」=「国際会議に参加する(引率があってもよい)」もしくは 「海外へ行く」=「研究の交流があるところを訪問する(自分で行き先を決める必要も ない)」だったりして、現実とのギャップがかなりあって「海外へ行く、がこんな 意味だとは思わなかった」と応募した人たちの間でしばし話題になりました。

そんなこんなで募集側と応募側で思惑がかなり違ったことは否めないと思いますが、 採用されたら今年度(3月まで)にやることを箇条書きでまとめて出せますか、という ことだったので、なんとかまとめて出します、ということになって面接は終わりました。

実は他にも「特待生になったらもちろん特待生のいいところはどんどん言って NAIST の宣伝をしてほしいのだけど、悪いところも言って改善してくれますか」 と言われたのですが、これは二つ返事で OK しました ;-)

参考までに、 特待生試験の日(11月22日)の日記です。

追加面接

ものすごい圧迫面接だったし、こんなに負荷が高そうな特待生になって高々 年間50万もらえるくらいでは割に合わない(研究室で仕事したりいろいろなところ で少しずつアルバイトしたりすれば、年間100万円くらいにはなる)とまた考え直し たりしながら、どうせあの内容なら不採用かもと思ったのでしばらく日々の忙しい 生活に戻っていたところ、11月の終わりにもう一度面接をするので来てほしい、 という連絡が来ました。

このときはさすがに特待生になることに関して慎重になっていたので、 言いたいことを言わないで採用になってもやりたくないことをやらされたら嫌だと 思ったし、言いたいことを言わないで不採用になっても後悔すると思ったので、 面接だろうがなんだろうが不満を言ったことが原因で落ちてもいい (そこまで未練はない)と思ったので、言いたいことは言いました。

これで落ちても仕方ないな、と思っていたところ、特待生採用の通知が来ました。 やりたいことはあるし、援助もくれるし、ということでひとまず安心しました。 あとで見たら追加面接に残っていた人たちは全員採用になっていたので、 追加面接の内容で合否が左右されたというわけではないような気はしますが、 やりたくない感じのプログラムではなくなったのでよかったです。

こちらも参考までに、 追加面接の日(11月28日)の日記 採用の結果が通知された日(11月29日)の日記です。

特待生になってから

特待生になって1週間ほどして、4月採用の特待生3人に加え、 新しく特待生になった人とその面倒を見る人(チューター)、 あと特待生の事務手続きをしてくれる人と先生方との顔見せがありました。 他に採用になった人たちはまだプロジェクトもあまり固まっていないので 仕方ないですが、それまで4月から活動していた人たちのプロジェクト内容 を知ったのはこれが初めてです。そもそも追加採用になった人たちは名前と 所属も含めて掲示板に貼り出されましたが、4月採用の人はどこにも名前が 掲示されていることはないし、誰がどの研究室にいてどれくらいの人数が 特待生になっていて、どんなことをしているか、知らないことだらけでした。 (4月採用の人たちはこっそりやっているのに自分たちだけ曝されている感じで あまりいい気しないね、ということも話しました)

なるまでは大変でしたが、なってからはときどき事務手続きがある以外は あまり普段と変わりません。そもそも自分のプロジェクトは自分が日常的に やっている開発活動に対して支援してほしいという内容が第一だったので、 普段と違うイベントを企画してどうこうというのは緊急の話でもなかったせい ですが、他の人たちも同様で、気にしなければいけないのは、海外研修に 行かなければならないので、行き先を決めることと、学会発表やら就職活動 やらでものすごく忙しい中、どの時期に行くかを決めることでした。

上にも書いたとおり自分は最初あまり海外研修には乗り気ではありません でしたが、知り合いのオープンソースソフトウェア開発者たちが主にアジアの 開発者会議に出ているのを見て、ふと自分も海外に久しぶりに行ってみたいな と思ったこともあり、どこか海外でいい集まりはないかと探したところ、 自分が所属している Gentoo Project の開発者のコアメーリングリストで FOSDEM にヨーロッパの開発者たちが参加する、というのを読んだので、早速 FOSDEM の取りまとめをしている開発者と連絡を取って参加させてもらうことにしました。

ここから先の経緯は2005年度の特待生活動報告書に詳しいので割愛しますが、 いつもインターネット越しでしか会えない人と会うことができてとてもいい経験 ができました。ヨーロッパに行くのも初めてだったので、いろいろと楽しかった です。行く前はためらっていましたが、忙しい中でも時間を工面して行って よかったと思います。特待生でなくても学会発表で海外に行く M1 の人はたくさん いますが、発表の縛りがなく行ってこられるのは気楽でいいので、特待生になった 人たちはぜひ積極的に行ってくることをお薦めします。自分は行き先からチケット からなにから全部自分で決めました(そもそも面接でもそういう話だったし)が、 他の人たちはだいたいチューターの人が行き先を「この中から選んでは」と 出してくれたり、そもそも行き先と最初から学校・研究室レベルで交流があるので あまり心配しなくてよかったり、航空券の手配や宿泊先の選定に至るまで世話を してくれたり、ついて来てくれる人までいたり(一人で行ったほうがためになる と思うのですが……)、心配しないで行ってくるとよいです。

特待生面接 HowTo (2008年更新)

実際の試験は masayashi さんによる 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科の入試面接を受けてきましたという記事が詳しいです。特待生面接での質問内容についても詳細に書かれています。

実際のところ、これまで特待生制度が始まってから2008年現在で既に4期生まで誕生し、大体どういう人がほしいのか、分かってきました。

というところです。特に2007年度から2009年度にかけては、 「おもしろいプロジェクトを学生自身が 企画して主体的に研究・開発する」という特待生のプロジェクト部分は Creative and Internatinal Competitiveness Project (通称 CICP) という学内公募型プロジェクト実習に発展的解消されたので、より研究や国際化活動の 比重が強くなっています。(もっとも、特待生のプロジェクトも継続しているので、 なにか自分で企画して実行する行動力のある人、というのは以前と変わらず特待生に なるための重要な要素です。この点は「勉強・研究ができればよい」という一般的な 特待生のイメージとは少し違います) 2010年度には CICP が廃止されたので、 また特待生のイメージも変わるのでしょうが、勉強だけできればよい、 というのではないことは変わらないでしょう。

最初の点に関しては、英語でたとえば TOEIC の点数が高い(800点以上)とか、 留学経験がある(留学するもしくは海外で将来働く気がある)とか、既にオープン ソース開発で英語を使ってやりとりしている、といったような経験はプラスです。 もし仮に現段階で英語は残念な感じでも、英語で書いたり話したりすることに 抵抗がなければ、そういう人は好印象です。要は英語で情報を発信していける人、 というのが重要です。研究を続けていくなら英語は避けて通れないコミュニケーション ツール(読み書きそろばんレベル)なので、ここで尻込みしていては採用されないでしょう。

2番目の点に関しては、学部時代と入学後で専門を変えるか継続するかでポイント は違います。ただし、NAIST は全員が学部と違う大学になるので、ほとんどの場合 研究テーマは変わることと思います(分野は同じでも。)。専門分野が同じであれば テーマが違っても入学直後から研究を始めることができ、M1 の間に論文誌に発表、 M2では国際会議に何個か通す(研究者志望であれば学振 にも通る)という感じでしょうが、分野を変えた場合はM1はほとんど勉強に使うことが 予想されます。後者の場合は(まだ全然研究も始まっていないのに)入学当初から研究 がんがん発表します、と言っても説得力ないし、実際大変なので、次の研究以外の プロジェクトをがんばる、という線で行くとよいです。

それで3番目の点ですが、これは本当に自分の興味があり、熱意もあり、そして さらに実現可能性が高く、他の人から見ても意義があるプロジェクトを提案する、 これに尽きます。自分が全くプログラミングしたことないのに「こんなプログラムを 作ります」と言っても説得力ありません。そういう場合は研究に関する Wiki を作る とか、ワークショップを企画・運営・開催するとか、語学力を活かして翻訳サイトを 作るとか、とにかく「今の自分になにができて、その中で一番他の人が喜んでくれ そうか、技術的・研究的に意味があるか」ということを考えましょう。自分のやりたい ことがないのは厳しいですが、もし仮にやりたいことがあったとしても、自分だけが 嬉しいようなプロジェクトにお金をくれるほど甘くはありません。自分も他の人も 得する(Win-Win と言ったりしますが)ようなストーリーを作り、それを話すことが大事 です。

特待生選抜をくぐり抜けて選ばれるためには、既に特待生になっている人から 話を聞くのが一番です。 自分がなにをしたいのか、なにができるのか、 ということをじっくりと考えて面接に臨んでください。健闘をお祈りします。


Mamoru Komachi <komachi--at--tmu.ac.jp>
Tokyo Metropolitan University