NAIST 情報科学研究科の受験を考えている人に
--- CR くんとの手紙 ---

この文書は奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大・NAIST)の情報科学研究科に出 願を考えている人・迷っている人・行く気満々の人に向けて書かれています。奈良 の生活というよりは、入った後の研究生活について、大学を変わることの不安などを取 り除けたらというつもりで書いています。

この文書は元々2006年のスプリングセミナーに来て(自分の所属する講座では ありませんが)親しくなった CR くんとの Mixi でのやりとりに基づいて編集してあり ます。彼も悩んだ内容はみんな悩む内容だと思いましたし、彼も掲載を快く承諾して くれたので、実体験に基づく内容を公開することは受験生にとって大事なことだと 思って公開することにしました。これを読んで参考になった、ここは自分の考えと違 う、これをもっと知りたい、などありましたら @mamoruk までお知らせください。

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1通目の手紙(2006年4月12日)

# 一般向けのオープンキャンパスと受験生向けのオープンキャンパス
# 両方参加するのは遠くからだと大変なので、片方でいいでしょうか
# というメッセージへの返信です

こんにちは。メッセージありがとうございます。

実は昨日博士後期課程の学内選考試験でした。まだ結果は出ていませんが、松本先 生も「たぶんだいじょうぶ」ということでしたし、そのまま進学してしばらく研究を続 けるつもりです。

奈良先端大は恵まれた環境だと思いますし、やる気のある人にはとてもいいところ だと思います。お話した感じでは、この大学に非常に向いている印象だったので、来て もらえると自分も嬉しいです。

結論から先に言うと、一般向けのオープンキャンパスでも見学は可能ですが、出ら れるなら受験生向けのオープンキャンパスに参加したほうがいいと思います。

4月22日のオープンキャンパスは一般向けで、受験生向けのオープンキャンパスは5 月27日にあります。去年は一般向けのオープンキャンパスが秋にあったので単純な比較 はできないかもしれませんが、一般向けのオープンキャンパスだと準備の学生もあまり 来ないので、学内の様子を学生から聞きたいのであれば、受験生と話すためにできるだ け研究室に来てほしい、と学生にも言われる受験生向けのオープンキャンパスに来たほ うがよいです。

自然言語処理学講座も一般向けのオープンキャンパスはやりますが、一般向けのオー プンキャンパスはだいたい助手の人とドクターの人が研究室で作っているもののデモを 行ったりする(教授・助教授の人はいなかったり、学生もデモ要員以外は研究室来なかっ たり)のが主なので、研究室の教授・助教授の人と話してみたい場合も、受験生向けの オープンキャンパスに来たほうがよいです。実際の入試では、願書に書く第一志望先の 研究室の教授が面接官に入って、研究したいことの小論文に基づいた質問をするので、 行きたい研究室があればオープンキャンパスの機会でも直接訪問するなりして、必ずそ この教授の人と話しておいたほうがよいです。

研究室にもよりますが、だいたいどんなことに興味があってどういうことをやりた いみたいなことを話すと、自分の研究室でそんなことがテーマとしてできるか教えてく れて、(教授か助教授の人が相手なら)来てほしい人ならその場で来てほしいと言われる と思います。そういった機会としても、オープンキャンパスは有効に活用できると思い ます(研究室によっては、客員講座でもないのに、週のうち3日は出張でいない教授なん て人もいます)。

都合が合わないのであれば一般向けのオープンキャンパスに参加するしかないのか もしれませんが、研究内容紹介はたぶん同一なので、両方参加する意味はあまりありま せんし(というか今年は日にちがかなり近いのでデモもどこの研究室も両方同じものを 使い回すと思います)、どちらか片方なら受験生向けのに参加されたほうがよいと思い ます。参考になれば幸いです。また聞きたいことがあればぜひ聞いてください。

2通目の手紙(2006年4月13日)

# NAIST でネットワーク系のことを研究しているのは山口研と砂原研とが
# あり、松本研(自然言語処理)と迷っている、という内容を受けていますが、
# 2016年現在砂原研は存在しないので割愛します。

オープンキャンパスの時期ですが、自分が受けた年は6月上旬でしたし、それで遅い とは感じなかったので、人によるかもしれませんが、だいじょうぶなのではないかと思 います。(自分は NAIST にするか他の大学にするかという2択だったので事情が違うか もしれませんが)見学は普通にできると思います。一般向けのオープンキャンパスと同 じくらい、という意味です。ゆっくり時間を取ってもらいたければオープンキャンパス とは全然関係ない日にアポイントメントを取ってやってくるしかないのではないかと思 います。去年も松本研は3人くらいそうやって平日に来た人がいました。勉強会も少し 参加してみたりしました。この場合はたっぷり時間取ってもらえると思います。

# このあと彼は自分で平日にアポイントメントを取って研究室を訪ねました

3通目の手紙(2006年4月14日)

# 大学院に進学するに当たっては、やりたい研究があるから来るのだろうけど、
# どのくらい踏み込んで考えるべきか不安に思っている、という内容の返事を受けて

やりたい研究というのを持って入ってくることも大事ですが、入った後その研究は 修士のテーマとしてふさわしくない(博士まで行くならいいが修士で終わりそうにない とか、もしくは何十年も前にさんざん研究されていて新規性が出しにくいとか)と言わ れることも往々にしてあるので、特に分野を少し変わって右も左も分からない状態な ら、そこまでがっちり決めて来ない方がむしろいいと思います。

だいたい学部と大学院の違いは、学部の学生が身につける能力は「問題解決能力」 で大学院の学生が身につける能力は「問題発見能力」だと言われます。大学院生はここ まで他の人が発見してくれたものを学んできたものの上に、自分で独自のものを付け加 えないといけません。全く他の人が興味を持たないような自己満足的なものでもいけま せんし、既に他の人が解決済みのことを解いてもいけません。自分も専門分野を変えて 来たので感じますが、やっておもしろいものをやる、というのは恐らくクリアできるで しょうが、問題は後者だと思います。ただ後者に関してはかなりサーベイしないと分か らないことで、周りに指導してくれる人がいない状況では論文を探したりするのも大変 でしょう(あと全然見当違いの方向に行く危険性がすごく高い)。それくらいならむしろ その分野の教科書的な概論の本を1冊か2冊でも読み、基礎的な数学とか英語やプログラ ミングの勉強をしながら大学院に入ってくるほうがいいんじゃないかと思います。

言い換えると、学部までは勉強だけでよかったですが、大学院では研究をしないと いけない、ということです。勉強というのは他の人が構築した理論を学んだり、練習問 題を解いて解法を学んだりすることですが、研究では現実世界で問題になっていること を解く、ということが大きく違います。まだ誰も気がついていないけど重大な問題を発 見することかもしれませんし、問題として認識されているけど解法が分からない(解が 存在することが分かっていて解法が分からないものもありますが、そもそも解が存在す ることすら分からない問題もいっぱいあります)ものの解法を発見することかもしれま せん。博士課程まで行くとなると両方の能力が求められますが、修士で修了するつもり なら後者だけでもいいのかもしれません。いずれにせよ、研究するというのは勉強する ということとかなり性格が違います。

ただ上に書いたようなことも実は研究分野や研究室によってさまざまであり、NAIST はけっこうしっかりした大学なのでこのあたりもちゃんと教育しますが、そうでないと ころもあります。

またテーマを決める時期ですが、入学後数ヶ月で決める人もいれば、2年になってよ うやくそろそろ決める人もいます。これも研究室や個人個人によって違うところなので 一概には言えませんが、おっしゃるように入学後半年間をかけてやりたいテーマについ て学んだ上で細かく研究手法を決めていくというスタンスでよいと思います。特に博士 後期課程まで進学する予定でしたら、自分も松本先生に何回も「簡単に研究テーマを決 めないほうがいい」と言われました。博士後期課程の3年、もしくは研究者になるなら それ以上取り組むテーマなので、しっかりと調査もせずにおもしろそうだからと飛びつ くと、新規性が出せなかったりあまり意味のあるテーマでなかったり(応用できない) して困ったりするそうです。

とはいえ、自分も入学する前にやりたいと思っていたテーマといまのテーマはかな り違うものになっているので、入る前に仮にテーマを決めて、その研究に必要な予備知 識はなんだろうと思っていまから準備しておくのはよいことだと思います。準備の勉強 は無駄になることはありませんし、目標がある程度決まっていると勉強もやる気になり ますからね。

最後になりますが、オープンキャンパスは基本的に勝手に来ていいものですが、ど うしてもスタッフの人と話したいのであれば、事前にメールしておくことを強くおすす めします。自分もそもそも第一志望は別の大学で、こっちに来るかどうかは迷っている ということをオープンキャンパスで松本先生に伝えましたが、そのときは「来たらもち ろん歓迎するしぜひ来てほしいけど、来てから『こんなはずじゃなかった』と言われる のがいちばん困るから、どっちに行きたいかよくよく考えてください」と言ってもらっ たこともあり、変に入試に不利に働くのではないかと考えたりするよりも、正直に思っ ていることを伝えたほうが適切なアドバイスをくれると思います。(全然頭がまとまっ ていない状態で行くのはちょっと失礼かもしれませんが、考えても考えても結論が出な い状態なら、真剣に相談に乗ってくれると思います。少なくとも松本先生は乗ってくれ ます。)

あと研究室選びを迷っているということも伝えてよいと思います。入学のとき希望した研究室に必ず行かなければならないわけでもありません。 入学してから研究室説明会や見学会があり、入学1週間後に配属希望先を届けます。配 属が希望通りに行かなかった人、つまり第2希望や第3希望のところに行かなければな らなかった人はここ5年くらいないそうなので、希望すればそこにほぼ確実に行けるそ うです。

# このあと聞いてみたら何人かはあったという話を聞きました

悩むのも入って配属先が決まるまでのことでしょうし(実は配属先が決まってからも 2ヶ月ごとに配属先変わるチャンスがあり、年間数人変わる人もいるそうです。研究テー マが合わないというだけでなく、研究室の先生とか博士の人との関係とか人間関係がう まく行かないというので移る人もいるようです)、レストランに入ってメニューをなが めてどれを食べようかなというくらいの気持ちで考えていてもいいのではないでしょう か。オープンキャンパスぜひ来てくださいね。ではでは

4通目の手紙(2006年4月18日)

# 小論文のテーマ「本学で研究したい分野」について、志望理由を書いた方がいい のか、
# 卒業研究のテーマが大学院でやりたい分野とは違うので書かない方がいいのか、
# といったことを訊かれた返信です

小論文のテーマは基本的になんでもいいのですが、志望先の研究室で研究できるテー マを選ぶこと(そうでないと研究室について調べていないのに来たと思われます)と、そ の研究室の先生が聞いて分かる内容のことを書くことです。やりたいことは複数持って いて全然かまわないのですが、具体的に願書の提出先の研究室が決まったら、そこに行 けたとしたらしたい研究の内容を書くことになります。(他の研究室に行けたらしたい 内容には触れないほうがいいんじゃないかと思います。本音と建て前を使い分けるとい う話ではなく、面接や小論文の趣旨の一貫性という観点から一つに絞ったほうがよいと いうことです。事前にオープンキャンパスで話しておけば先生は分かっていると思いま す)

本学で研究したい分野に関しては、詳しく書く人もいればそうでない人もいると思 います。自分に関しては志望理由が全体の2/3を占めていましたが、そんなのでもいい とは思います。ただし面接では志望理由については触れられることなく、残り1/3のや りたいことについての質疑応答と、あと寮に入りたいかとか奨学金がほしいかとか、プ ログラミングや計算機の扱いや数学はだいじょうぶか、といった内容を質問されまし た。研究についてはちゃんと研究したいと思っている分野を調査しているかどうか(実 際は全然調べていなかったので、正直に答えましたが……)、ドクターまで行くつもり かどうかといったことが聞かれました。志望理由は「書いてもいいけど長々と書いても そんなに意味はない」ものだ思います。

自分は文科系出身だったので卒業研究に関する質問は全然なかったのですが、理科 系の人は卒業研究について話してくださいという人もあったようなので、小論文で触れ る必要はないと思いますが(むしろ受けたい研究室の先生に、いまの卒業研究と入って からやりたいことは違うということを事前に伝えて意見をもらっておいた方がいいと思 います)、なぜ違うのかと面接で聞かれたときに答えられるようにはしておいたほうが よいでしょう。

いずれにせよ試験はあまり気にすることはないと思います。当日面接を欠席したり しなければ受かるでしょう。試験の点数は寮に入るときとか奨学金を申請するときに関 係するので、絶対寮に入りたいとか、学生支援機構の奨学金が絶対ほしいとか、特待生 プログラムに応募したいということでもなければ、気楽に考えていていいんじゃないで しょうか。

第一志望で志望理由も明確な人は、その人の(たとえば高専出身の人は英語とか、文 科系出身の人はプログラミングとかの)能力は少し努力が必要でも、入ってから絶対伸 びるのでぜひ来てほしい人で、逆にあまり来てほしくない人は、多少優秀でも他の大学 に落ちて嫌々来る人(就職さえできればよいと思って来るので、いい成績を取ったりす ることに夢中で、「研究に関してこんなことやってみたら」と言ってもなにもやろうと しないし、前の大学での研究を続けたいとずっと言い続ける人も)だという話を松本先 生から聞きました。

なんでもいいので疑問に思うことがあればためらわないで聞いてください。納得し て来ることが一番大事なことだと思いますし、来る前にどういうことが知りたいのか分 かってこちらも勉強になります。

ではどうぞよろしく。

# このあと受験生向けのオープンキャンパスにも来てくれて、一般向けのオープン
# キャンパスと違って非常に活気があり、言われたとおりこっちにも来てよかった、
# というふうに言ってもらいました。これから受験される方も受験生向けのオープン
# キャンパスに来ることをお勧めします。

# ちなみに自分が NAIST の入試で使った小論文も 置いておきます。
# なにかの参考になれば。

[ NAIST情報科学研究科の受験を考えている人に(2) ]


Mamoru Komachi <komachi--at--tmu.ac.jp>
Tokyo Metropolitan University