奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科入学試験小論文

絶対真似しないでください。下にも書きましたが、これは「ダメ」な小論文の例です。何がダメかをちゃんと理解して、こう書かないようにしてください。 Please do not mimic this. This is only for your reference.

出願研究科:情報科学研究科
氏   名:小町守

希望講座:自然言語処理学講座
取り組みたい研究テーマ:「機械翻訳」

 NAIST に入ってから研究したいのは機械翻訳です。特に日中英相互の機械翻訳に取り組んでみたいと思っています。言語理論を実際的な問題に応用し、試行錯誤する過程で理論を練り上げていくことに興味があります。機械翻訳がもっと進んで使いやすいものになり、世界中の人とコミュニケーションを取るのに少しでも障壁がなくなるよう努力したいです。

 機械翻訳を研究テーマにしようと思った背景には、高校生のころから人間の言語に興味を持っていたことがあります。そのころは漠然とことばの意味、文の意味について考えたいと思っていて、大学に入って言語哲学を勉強するつもりで、大学に進学してから哲学と言語学のどちらに進むかを決める予定でした。しかし、大学に入ってから学んでいく過程で言語自体に関心が移り、大学院では実際の言語を扱ってみたいと強く思うようになりました。また、大学で計算機に触れ、親しむことで、なんらかの形で計算機を用いた研究もできるとよいと思っていて、計算言語学という学問分野で計算機を用いた自然言語処理をしているということを知り、計算機と言語との両方に接することができるので、ちょうど自分のやりたいことができると思いました。

↑↑↑ここから上の2段落のようなことを書くのはやめてください。自分が採点者ならすぐ上の段落は0点にします。↑↑↑

 計算機を用いて言語と向き合う、特に翻訳という場面で計算機を使うということは、翻訳元の言語の文法的知識と翻訳先の言語の文法的知識を、計算機を介して結びつけることです。これは翻訳家が無意識のうちに行なっているプロセスを記述することにもつながりますし、膨大な量のデータを処理できるという計算機の特性を活かした、計算機ならではの翻訳も可能でしょう。まだこの分野にどういう可能性があるかについてはこれから研究してみないと分かりませんが、なにをやるにせよ、深く掘り下げて追求することで、なんらかの原理的な貢献をしてみたいと思っています。

 また、機械翻訳というのは、実際にソフトウェアを研究・開発してできたものを実用化して世に問うことができる、というのも、チャレンジしてやりがいがあります。現在手軽に試せるものとして web 翻訳で実際に翻訳してみると、この分野はまだまだ改善の余地があると強く思います。日本人は英語がネックになって英語と見ると読まなかったり、逆に英語で書いてほしいとなると書くのを止めたりすることが往々にしてありますが、こういったハードルも徐々に下げていきたいと思っています。それに加え、日本語が母語でない人にも日本語への翻訳エンジンを提供することによって、日本語話者とのコミュニケーションが円滑に進むようなものを作り上げていきたいです。

↓↓↓ここから下の2段落のようなことを書くのは絶対にやめてください。自分が採点者ならここから下は0点にします。↓↓↓

 これまで大学で数学やプログラミングを体系的に学んだことはありませんが、先日のオープンキャンパスで入学後の授業や研究会・勉強会が充実していることを知り、必要な知識が足りないところは十分バックアップできそうだ、と思ったことも NAIST で勉学しようと決心した理由の一つです。研究するのに非常に魅力的な環境で、刺激に満ちた学生生活が送れるものと確信しています。

 NAIST で学び、周りの仲間と研鑽し、研究することで、機械翻訳の理論と応用に新たな1ページをつけ加えてみたいです。

コメント

この小論文は「こんなものでも受かった」ということを示しているだけのもので、「こう書けば受かる」というものではないので、お間違えなきよう。(ちなみに、書いたのは本当にこれだけで、図表もなにも入れていません。A4で1ページに収まるようにしたのを憶えています。願書〆切当日になって書き始めたので、推敲している暇もなかったような……。真似しないでくださいね!)

ちなみに上記は書くと短く見えますが、A4でちょうど2ページです。

「あなたは偉そうなことを言っているけど小論文大したこと書いていなかったでしょう」と、受験生や合格者に言われることがあります。全くその通りです。繰り返しますが、上記のような「作文」は本当に真似しないでください。自戒を込めて、ここに置いてあるだけです。実際どのようなものが「論文」かは、トップページに入学後に書いた「論文」がありますので、ざっと眺めてみてください。

特に最後の2段落のようなことを書くのは止めてください。 このようなことを10行くらいに渡って書いて、「添削してください」というメールをよくいただくのですが、NAISTの中の人が読む文章にNAISTの環境がすばらしい思うということをいくら書いても、あなたがなにをやりたいかについての情報量はありません。

また、分野外なのでNAISTに来てからたくさん勉強したい、ということを書く人もいますが、NAISTは研究大学であって教育大学ではありません。こういうスタイルが許されたのは自分が哲学科出身だったから、という事情もあるかと思います。知識がない、という言い訳を書くより、あなたのこれまでの経験をどのようにNAISTでの研究に活かすことができるか、ということを書いてください。

NAISTにかぎらず、入社試験でも、入りたい人を合格させるのではなく、入ってほしい人を合格させるのです。あなたを合格させたらNAISTにどのようなメリットがあるのか、ということが分かるような論文を書いてください。(「情報科学の勉強をしたい」というのはあなたの側のメリットであって、NAIST側のメリットではありません。「人文系の知識を活かした研究をしたい」というのはNAIST側のメリットになります)

人文系出身の方は、お手本としてNAIST 小論文の書き方をご参照ください。これまで20本程度受験生の小論文を見ましたが、keiskS さんの小論文がいちばんよく書けてらっしゃいました。(ほとんど直すところもありませんでした) ちなみにこのあと keiskS さんは NAIST 松本研で M2 のとき自然言語処理のメジャーカンファレンスでフルペーパーを発表し、修士号を取得したのち博士後期課程への進学と同時に日本学術振興会特別研究員(DC1)に採用され、その後ジョンズホプキンス大学(世界有数の大学です)の PhD コースに進学しました。人文系出身でも(人文系出身の方が?)自然言語処理は優れた研究ができる分野だと思いますので、博士後期課程への進学もご検討ください(ちなみに、小町も日本学術振興会特別研究員(DC2)に採用されました)。

卒業研究があるような理工系出身の人は、下記の理工系の人たちの小論文を参考にしてください。卒業研究がある人は、上記のような散文スタイルの小論文は書いてはいけません

見本となる小論文としては、ロボティクス講座のアサノさんが書かれた NAIST 入試小論文を公開しますを参考にされることをお勧めします。 アサノさんの小論文は、こういう構成で書ければ非常に高得点が取れるだろう、というような感じで、(内容は真似しても意味ないですが) 構成は大いに参考にしてください。

「どうせ入試の配点は面接だけで小論文は配点低いだろう」と思うかもしれませんが、採点してらっしゃる先生方から聞いたところ、小論文の配点もかなり高いそうです。ちゃんと論文が書ける人を取りたいようで、1-2ページだからと適当に書かず、しっかり書きましょう。

あと2008年の入試を受けた人からメールで受けていた相談について、引用しつつ説明します。

> 一般的な大学院だと、入試時に提出する計画に沿って研究を遂行することが求められる
> のかもしれませんが、NAISTの小論はそういう性格ではなく、一般的な理解力・表現力・
> 企画力を示せれば十分だと認識しています。見当違いでしょうか?

入学後の研究内容が小論文に縛られることはない、というのはその通りです。た
だ理解力や企画力というよりは、研究を遂行するに当たっての能力を見る、とい
うところだと思います。現状当該分野がどういう状況にあって、その中でどこが
問題点になっていて、それをどういうアプローチで解決したいのか、そういう道
筋が示せたら十分ですね。

要は研究計画書を書くのと同じで、背景→目的→提案手法(独自性)みたいなところ
まで書ければ満点です。まあ小論文なんでその分野のエキスパートでもないし、
独自の手法を提案する必要はないですが、一応小「論文」なんで、構成は必要だ
ということです。(まあ、そんな気合い入れて書かないでもたぶん受かると思い
ますが、受かった後にも論文を書く能力は必要ですので……)

上記アサノさんの小論文は実際にこのような構成になっている(自分のこのページに掲げた小論文は、どういうものが求められているのか知らずに書いたので、そうなっていない、エッセイ的な物)ので、非常によい小論文です。ちなみにこのアドバイスを受けた彼はその後特待生内定したそうです。みなさんも受かる小論文、そして入学した後の研究につながる小論文を目指してください。

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Mamoru Komachi <komachi--at--tmu.ac.jp>
Tokyo Metropolitan University