学振取るまで(NAIST 版)

NAIST で学振取る人あまりいないので、こんな文書でも書いて一人でも多く応募して、 そして採用されることを願って書いてみます。「学振」という単語に聞き覚えが ある人、もしくは博士後期課程に進学予定の人、または在学中の人向けです。

ポイント(忙しい人のために)

学振とは

検索するといろいろ出てきますが、ここで言う「学振」とは日本学術振興会、 特に日本学術振興会特別研究員のことを指します。この特別研究員に採用されると、 学生の場合月20万円のお給料、そして科研費が年間最大150万円(満額もらえることは ありません。自分のときは年50万でした)もらえます。 民間企業に就職するのと比べると決して多いとは言えない金額ですが、 学生という身分からすると十分な金額であり、また博士修了後大学に残る場合は 学振の特別研究員に採用されたということもアピールできるポイントになりますので、 アカデミックな世界で生きることを志す人はひとまず全員学振を目指しておくと よいでしょう。

学生が応募できる学振には大きく分けて2つあり、博士後期課程進学予定の 修士2年生が応募できるDC1と、すでに博士後期課程に在学中の人が応募できる DC2とあります。DC1に応募できるのは修士2年の人だけで、みんな業績もそんなに ないので、研究計画の出来次第で採用になる場合もありますし、逆に業績がすでに ある人にとっては有利です。修士の人は自分に業績がないからと諦めず、 挑戦することが重要です。書くことによって、自分はどういう研究がやりたいのか (またはやりたくないのか)が明らかになるので、進学予定の人はとにかく書き ましょう。

一方DC2は博士後期課程に在籍する全ての人が応募できるので、必然的に学年が 上の人のほうが業績が増えてくる(分野や論文誌にもよりますが、論文誌は査読に 1年近くかかることもあるので、学年が下の人はあまり論文誌がない傾向にある)ので、 博士1年生や2年生は厳しい戦いになります。平成18年度採用分から不採用だった人 は自分の申請書の評価点を知ることができるので、どこが足りずに不採用になったか 検討し、次回に生かすことができるので、その意味でも毎回出すといいです。

自分の場合

はじめてのDC1

自分の場合は大学院に入学したときから博士後期課程に進学するつもりだったので、 最初から学振に応募するつもりでした。NAIST の情報科学研究科は博士後期課程の 学内進学は修士2年の4月上旬に最初の試験があり、早々とドクター進学を決めましたが、 4月の下旬くらいになると「業績もないし出しても落ちるだけだし、推薦書書いて もらうの頼むだけでも悪いし」と卑屈になって指導教官にも受けるのを辞めようかと 思っている、と伝えたことがあります。

すると指導教官は、「研究計画書を書くのも勉強になるし、DC1 はそこまで 業績なくても研究計画書がうまく書ければ通ることもあるし、出してみたら。 推薦書は喜んで書くからあまり気にしないで」と言ってくれたので、それなら少し がんばってみようかな、と思い、全部で8ページある研究計画書を埋め始めました。

書くのはたった8ページなんだし、一応全国大会で4ページ書いた論文があると 思って最初はコピペ から始めたのですが、書き始めてみるとこれが難しい。 1週間で終わると思っていたらずるずるとかかり、結局1ヶ月近く格闘していたことに なります。

なにが難しかったかというと、そもそも3年のスパンで研究計画を立てる、 というのは、一つストーリーを作って最初にこれをやって、次にこれをやって、 最後にこれをする、といったことを書かないといけないのですが、3年後に自分が なにをやっているか想像もつかなかったことです。逆に、ここで苦しむことによって 客観的に自分の研究の売りと欠点についても考えることができたし、将来的に どういう方向に向かっていくのかということを自分で悩むことができました。

とはいってもこんな書類を書くのは初めてなので、一応全部自力で書き上げる ことはできたのですが、どうブラッシュアップすればいいのか分からず(つまり、 どういうのを書けば受かるのか分からなかった)途方に暮れていると、同じ研究室 の先輩で、D2のとき学振DC2に面接を受けて通った人が、申請のとき使った研究 計画書を見せてくれました。その人は何回か出して落ちた末、学会賞も2つ3つ もらってようやく面接に漕ぎ着けて採用されたので、厳しい DC2 の戦いを勝ち 抜いた貴重な研究計画書は非常に参考になりました。同じ研究室ですでに学振を もらっている人がいたら、その人の研究計画書は絶対に勉強になるので、参考 するにせよしないにせよ、もらって見てみましょう。自分は特に強調の仕方 (ゴシックの使い方)、文献の参照の仕方、研究の年次計画のところが参考に なりました。

書き上がったものは指導教員に送り、チェックしてもらって書き直し、 学校の事務に提出しました。そのときの申請書はこちらです。 申請するときは どの分野の人たちに審査してほしいか自己申告するのですが、平成18年から 細分化された分野分けで、自分の専門分野である自然言語処理では全員 「工学(知能情報学)」で出しているので、その分野で出すことにしました。

最後提出した後指導教官からは「全部読んだけどしっかり書いていたね。 業績はともかく可能性はあると思う。期待すると外れたときがっかりするから 期待はしないほうがいいけど、全然だめということはないよ」と言ってもらい、 それはそれで少し自信になりました。

そしてしばらく学振のことは忘れていましたが、10月末ごろ通知されると いうのを聞いて、いつ帰ってくるのかと)期待しないほうがいいと釘を刺された にもかかわらず)期待しながら毎日ポストを覗いたり(NAIST は昼の12時くらいと 夕方6時くらいに郵便配達があります)、2ちゃんねるの学振スレッドを読んだり そわそわしましたが、結局11月1日に封筒が来て、不採用の知らせでした。

もらった通知書には申請分野の統計と個人の評価が書いてありました。 自分が申請したのは工学分野の DC1 なので、そこには

とあり、面接免除もしくは面接対象まで進むためには、申請者の上位30% にいないといけないことが分かるのですが、逆に言うと同期の上位30%にすら 入れなかったのか、と少し落ち込みました。

がっかりしたのはしたのですが、同じ年に入学した人で、修士を飛び級して すでに博士1年生になっていた人も、面接にこそ進みましたが、結局東京まで 面接に行って不採用だと聞いたので、論文誌に何本も通してさらに学外の プロジェクト(未踏ユースと未踏プロジェクトの両方)まで活躍しているのに 無理なのか、と思って、その厳しさに愕然としました。

個人的な評価のほうは

  1. 研究者としての能力、将来性: 3.33
  2. 研究業績: 2.50
  3. 研究計画: 3.16
  4. 総合評価: 3.16

となっていて、将来性や研究計画はそれなりに評価してもらえたようですが、 やはり論文誌に1本も通していないのと、国際会議でも発表していないのが、 業績としてかなり他の申請者と比較して足りていないのだな、ということが 分かりました。業績に関しては次年度以降単調増加なのでいいのですが、 悪いことに DC2 は博士後期課程の学生全部が対象なので、また来年は D2 の人に混じって業績が評価されるので、また振り出しに戻るのかと暗澹たる 気持ちでした。

とはいえ、修士2年の秋ごろから「本当に研究者の道に進んでいいのか?」 「この研究テーマでいいのか?」と自問自答したこともあり、学振に出すには 業績が足りない、研究テーマをもっと深めて早いところ論文誌に投稿しないと、 採択までに1年もかかっていては翌年の申請に間に合わない、と思いながら、 いまさら出しても1年目のDC2には間に合わないのは明らかだったので、 逆に開き直ってジャーナル投稿はまったく進めないまま翌年のDC2を迎えた のでした。

挑戦のDC2

DC1 に挑戦できるのはM2の1回限り(実は修士で留年もしくは休学すると 2回挑戦でき、特に留学など研究関連で1年延ばすと延びた間に国際会議に 論文を投稿できたりして業績が増え、DC1 に受かりやすくなるそうです) ですが、DC2 は卒業までストレートで合計3回出せるし、出すたびに業績は 単調増加(のはず)なので、最初の1,2回はいろいろ試してみよう、 と思っていました。

ただ、自分はD1の5月から8月までアメリカの Microsoft Research という研究所にインターンに行くことにしており、ちょうど学振の申請時期 と重なってしまったので、DC1 で使った申請書とほとんど変えずにそのまま また提出しました。日本にいる研究室の友人に印刷と提出もアメリカから 頼んで出してもらいました。内容も変えていないし、業績も国際会議が1つ、 全国大会が1つだけで、論文誌もないのでDC1より厳しいDC2では絶対無理だと 思い、どうせだめなら試してみよう、というわけで、申請する分野を「工学 (知能情報学)」ではなく「人文学(言語学)」で申請してみました。

というのも、web で検索してみると、分野を変えたらそれまで何連敗も していたのにすんなり採用になったというページがいくつもあり、それなら 自分の分野(自然言語処理)も工学的なアプローチもあれば、人文系のアプローチ もあるので、人文の人が見たらどう評価してくれるのか、というのも知りたかった ことです。いま学振のページに行くと、昨年度までの採用者の名前・所属大学・ 採択テーマ一覧が見られますか、人文学の分野では細目が言語学で採用されて いる人が毎年10人ほどいて、認知言語学といった半分理科系半分文科系のような 人たちがよく採用されているので、自分の研究分野も「計算言語学」という ことで申請すれば採用されやすいのではないか? と思いました。逆に工学分野 では自然言語処理は人工知能という大きな枠組みの中で1,2人の枠を奪い合う 感じで、機械学習やデータマイニングなどいろんな人がひしめき合う中で 同期のトップに躍り出ないといけないのは一筋縄では行かない感じです。

そういうわけで、DC2 の1年目で採用可能性を最大にするには、 一か八かだと思って申請分野は「人文学(言語学)」にしました。 申請に使った研究計画書はこちらです。 時間と余裕のある人は、DC1 のときに提出した計画書(上にあります)と比べると、 どこがだめで落ちたのか分かるかもしれません。

採用者の所属をさらに見てみると、 NAIST からは3研究科全て合わせても毎年2,3名しか採用されていません。半数以上 は東大や京大の学生で占められています。これは NAIST が大学院大学なので学部と 違った研究をすることになり、必然的に業績の面で不利なことが原因の一つと 考えられますが、それにしても厳しい結果です。DC1 の書類をもらいに行くと 名前を書かされますし、提出するときも研究室まで電話がかかってくるので、 全体で何人出しただいたい分かるのですが、情報科学研究科の場合、自分の年は かろうじて両手で数えられるくらいの数しか出していませんでした。 ドクターに進学する人数が3,40人であることを考えると、出した中で1番か2番 くらいであればもらえる寸法であり、倍率としてはかなり低い部類だと思います。 挑戦しないのは損、であると言ってもいいでしょう。 (結局この年は NAIST からは一人ももらえなかったのですが)

DC1に出した1年目は右も左も分かりませんでしたが、2年目ともなると、 だいたい感じが分かってきて、こういうふうに採択テーマを見て傾向と対策を 立てられるくらいになったのは収穫です。そういう意味でも、採択されるかどうか に関わらず、毎年自分の研究内容と業績をアップデートして、いつでも競争力の ある研究者でいられるよう努力するという意味でも、毎年更新して学振に出す、 というのは重要なのではないかと思います。

さて、今年も結局出してからしばらく忘れていて、10月の終わりになって そろそろ発表かなとそわそわしましたが、さすがにDC1なら研究計画で取っても DC2だとだめだろう、と諦めていて、他のフェローシップに応募したり、 来年のインターンシップ先を探していたりしましたが、10月30日に結果通知の 封筒が来て、なんと面接免除で採用になっていました。今年は応募総数が 減っていたのはすでに公表されていましたが、よくて面接と思っていただけに、 望外の結果でした。

昨年インターンに行った Microsoft Research の環境はありえないくらいよく、 「今年もぜひ来てください」言われていただけに、それを断って学振を受けるのは 正直悩みましたが、指導教官に相談に行ったら「今後アカデミックに残るのであれば 学振の特別研究員は職歴になるから、学振のほうがいいよ。あと、研究費が自由に 使えるのも大きいし」ということで、学振を取ることにしました。実際、 自分の所属する研究室はかなり大きい研究室で、研究費に困ることはないのですが、 小さい研究室・大学で、パソコンも自腹で買ったり書籍も自費だったりする場合は、 研究費を使えるのはかなり大きいと思います。

あと、IBM Ph.D Fellowship というのも応募していて最終選考まで残っていて、 あと金額の調整とかすればもらえるようなところまで来ていたのですが、 こちらも学振に問い合わせたら重複受給は不可との回答をもらったので、 IBM に辞退する旨返信しました。IBM Ph.D Fellowship は情報系の人しか対象には なりませんが、年間の授業料と生活費を支給され、 それだけでなく インターンシップにも参加させてもらえる、というものです。ちなみに Google、 Microsoft、IBM といった大手企業のインターンシップは、奨学金的な意味合いもあり、 日本でいう新卒の初任給以上の額のサラリーをもらえます。 特に将来海外で働きたいという人は行っておいたほうがお得です。 (インターンに来た人は8割くらいそのままその企業に就職するそうです。 採用のときもたとえば普通に受けたら8回ある面接が4回になったりします)

学振損得

最後になりましたが学振になってもいいことばかりではありません。いくつか それらについて述べたいと思います。

まず兼業が不可になります。大学の非常勤講師や TA/RA といった、研究に 関係するものは一部だけ可能(週5時間まで)ですが、それ以外のプログラミングの アルバイトや(自分の研究計画に関係ない)インターンシップ、 もしくは国内外のフェローシップの重複受給も不可になります。 Microsoft Research でサマーインターンにも書きましたが、海外でインターンシップをすると 研究上の経験にもなりますし、日本学生支援機構の奨学金をもらい、 TA/RA をして毎年1回海外にインターンしに行けば、 学振をもらうのと遜色ない手取りがありますし、就職するときも役に立ちます。 海外の学生は毎年インターンシップに行く人もいるくらいで、履歴書に大学名を 書くのと同じように履歴書にいい企業でインターンシップをしたということを書きますし、 あえてそちらの道を選択するのもいい選択だと思います。 (註: 最近規定が改訂され、届け出れば一定期間まで インターンシップに行くことが可能になりました。 また、研究指導委託を出してもらって行くインターンシップは以前から可能です。 この場合、依頼出張になるので、旅費と生活費の日当は受け取ってもよいようです)

とはいえ、やはり2-3年の間安定した生活が保証され、研究に集中することが できるのは大きなメリットです。長い研究者人生を学振の特別研究員に採用されることから 始めることができるのは、アカデミックキャリアをスタートするに当たっては十分 恵まれた環境であると言えるでしょう。

それでは学振目指してがんばってください。


Mamoru Komachi <komachi--at--tmu.ac.jp>
Tokyo Metropolitan University